優勝 安藤戒牛(愛知県)
「実感がわきません。稽古でやってきたことを出すだけだと思っていました。自分でもびっくりしています」
決勝戦、最後の面もまったく覚えていないという。「勝ちたい気持ちより、自分の力を出し切りたいという思いが強かったと思います。悔いが残る試合だけはしたくありませんでした」
決勝の相手、岩佐とは、全日本の強化合宿で何度も試合をしていた。「昨年の優勝者ですし、目標の選手でした。自分は挑戦者なので、気分的には楽でした」
国士舘大学時代、2年連続学生日本一となった。平成8年、地元愛知愛知県警に入り、平成10年全国警察選手権(四段以下)で優勝を果たしたが、自分の剣道に対する迷いがあった。「研究されるようになってきて、自分でもどうしたらいいのか分からなくなりました」
全日本選手権には97年初出場を果たし、翌年も出場したが、それから3年続けて、予選を突破することができなかった。同年代の原田梧、佐藤充伸らが活躍するのをどんな気持ちで見ていたのか。「正直、悔しい気持ちもありました。いっしょに戦いたいと思いました。しかし、うらやましがっても仕方ないし、自分が今やれることをやるだけだ、と考えが変わりました」
昭和48年生まれの29歳。20代の優勝者は平成2年の宮崎正裕以来である。
「日本一という感じは全然なくて、夢の中にいるような感じです。これから先の方が大変だと思うので、今の気持ちを忘れず稽古に励みます」
謙虚で冷静、真面目すぎるほどの答えしか返ってこなかった。追われる立場となる次の大会で、どんな戦いを見せるのか楽しみである。
月刊 「武道」2002.12より